今日の1曲 ロバート・ワイアット『Shipbuilding』
稀代の名曲「Shipbuilding」は、エルヴィス・コステロとクライヴ・ランガーによって、ロバート・ワイアットのために書き下ろされた曲。
その後コステロがセルフカバーして「Punch the Clock」に収録されたので、そちらの方が一般には広く知られているのかもしれない。
ちなみに、クライヴ・ランガーというのは、その頃、アラン・ウィンスタンレーとチームを組んでいたプロデューサーで、コステロ作品は「Punch the Clock」と次の「Goodbye Cruel World」をプロデュースしている。元Deaf School。
コステロとはケンカ別れになったのか、後にコステロはこの2人のことをクソミソにけなしていたけれども、ぼくはコステロ作品の中ではこの2枚が一番好きで、この2人のプロデュース作品は、他にもその当時のマッドネスの数枚(祝! 『Keep Moving』Deluxe Edition発売!)など、どれもたいへん素晴らしい。
個人的に当時大好きだったプロデューサーだ。
高校生の頃、ラフ・トレードから出たロバート・ワイアットのコンピレーション(もちろんアナログLP。)を買って、「Shipbuilding」はそれに収録されていた。
このアルバムには、「Round about midnight」とか、ピーター・ガブリエルの「ビコ」のカバーとかも収録されていたと記憶するが、今や実家の奥深くに格納されてしまっていて確認できない。
調べてみると、「Shipbuilding」は82年の「Nothing Can Stop Us」に収録されたのが最初らしい。
その後、コステロのバージョンも聴いたけれども、やはりロバート・ワイアット版の圧勝であって、「Shipbuilding」と言えば、そのラフトレードのコンピ盤を思い出す。
コステロも真っ向勝負では勝てないと思ったのか、セルフカバーではチェット・ベイカーのトランペット・ソロという飛び道具を使用し、しかもそれが期待どおりの名演になっているけれども、それでもやはりこの曲は明らかにロバート・ワイアットの声に向いている。
今年の正月にいきつけの店で大将と話していたら、そのロバート・ワイアットのバージョンを知らないと言う。
それは聴くべきだとすすめたのだけれども、後で調べてみたら、どうも容易に手に入らない様子。
オリジナルアルバムの「Nothing Can Stop Us」は普通にCD化されているのだけれども、版権の関係か何かなのか、肝心の「Shipbuilding」だけがカットされている。
その他には、ざっと探したところ、この名曲を聴くには、5枚組のボックスセットを買うしかないらしい。
そういうことになると、余計聴きたい。
自分自身、下手すりゃもう20年くらい聴いていないように思う。
頼るはヤフオク。
ありました。すぐに。
過去に出ていた「Nothing Can Stop Us」と「Old Rotten Hat」の2in1のコンピレーションの中古を安価で入手。
2in1というのはしみったれてて気に入らないけれども、贅沢は言わない。
で、久しぶりに聴いたロバート・ワイアット・バージョンの「Shipbuilding」。
うーん、やっぱり名曲だなあ。
こんな曲(↓)です。
http://www.youtube.com/watch?v=B6T9qp9XbRY
http://www.youtube.com/watch?v=WauikqTjjHI
さて、この「Shipbuilding」。曲もいいけど、詞も素晴らしい。
82年当時のフォークランド紛争に材を取った反戦歌である、ということは当初から知識としては知っていたのだけれども、どういう風に反戦歌になっているのか、詞の解釈はちゃんとできていなかった。
「Punch the Clock」はアナログの日本盤を持っていたので、それで訳詞も見ているはずだけれども、たぶん出来の悪い訳だったのだろう。特にピンとこなかった。
それが今回、ネットであれこれ調べているうちに、よくわからなかった部分が判明して、この曲のメッセージ性がかなりはっきりとわかってきた。
わかってくると、なおさら感動が増した。
名曲だけあって、訳をホームページにアップしている人もちらほらいる。
特に、ここ(↓)がたいへん参考になりました。
http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Cinema/1594/page030.html
せっかくなので、最後に拙訳を以下にご紹介します。
【解題】
上記サイトにもあるように、「Shipbuilding」は、造船の街を舞台とした曲。
当時のイギリスは70年代から続く構造不況をまだまだ脱出しておらず、中高生だったぼくでも、イギリスと言えば失業率の高い国というイメージがあった時代だ。
特に、技術革新に失敗した造船、炭坑、製鉄などの製造業の斜陽化は甚だしく、当時のサッチャー政権は、それらを次々に閉鎖して、大量の失業者を発生させた。
リバプールやグラスゴーといった造船で繁栄してきた街の惨状は、上記サイトにもあるとおり。
そこへ、82年、フォークランド紛争が勃発する。
閉鎖されていた造船所が、軍艦を造るために再開される……。
……というような背景を頭に入れた上で読んでください。
歌の主人公は、造船業で食ってきたけれども今は失業中のおじさん、って感じでしょうか。
【拙訳】
Shipbuilding(造船)
Is it worth it?
A new winter coat and shoes for the wife
And a bicycle on the boy's birthday
相応の稼ぎになるだろうか
妻には新しい冬のコートと靴を
子供の誕生日には自転車を
(Is it worth it? は、直訳すれば、「それだけの価値があるだろうか」。上記サイトにあるとおり、造船が再開されれば、再び職を得て、これまで買えなかったものが買えるかもしれないというほのかな期待が歌われている。)
It's just a rumour that was spread around town
By the women and children
Soon we'll be shipbuilding
それは町中に広がったただの噂
女や子供達が広めた
もうすぐ造船が始まる
Well I ask you
The boy said “Dad, they’re going to take me to task
But I’ll be back by Christmas”
まったくひどいもんだ
息子が言った
「父さん、タスクに行かされることになった。
でも、クリスマスまでには帰るよ。」
(I ask you というのは、驚き・怒り・不快などを表す表現で、「まさか!」「ひどいもんだ!」といったニュアンス。
task は「任務」や「職務」であるが、これは当然、task forceの一員としてフォークランド紛争へ派遣されること示唆する表現だろう。
「クリスマスまでには帰る」というのは、上記サイトによると、「第二次世界大戦が始ったとき、大した戦争でないから、英国軍はクリスマスには帰ってくると当時の英国民は信じていた」というのを踏まえてのフレーズとのこと。なるほど)
It's just a rumour that was spread around town
Somebody said that someone got filled in
For saying that people get killed in
The result of this shipbuilding
それは町中に広がったただの噂
誰かが言うには
誰かが×××されたらしい
この造船で人が死ぬことになるんだぞと言ったせいで
(この get filled in という表現は、上記サイトによると、スラングで、「beaten up の意」、とあるが、裏が取れなかったので、念のため不明で×××とした。他には「仕事をなくした」としているサイトもあった。が、それも根拠がわからない。恐らくは、beaten up が正解のように思う。だとすると、訳は「誰かが袋だたきにあったらしい」、くらいか。職場の20代のアメリカ人とカナダ人に聞いてみたが、わからないようだった。当時のイギリスのスラングだとしたら、知らなくても当然だろう。
いずれにせよ、このバースは、再開される造船が軍事目的であることに関して、地元の失業者達の間でも意見が割れ、衝突が起きていることを歌っているものと思われる。)
With all the will in the world
Diving for dear life
When we could be diving for pearls
精一杯の気力を振り絞り
必死になって海に潜る
真珠を採りに潜ることだってできるというのに
(With all the will in the world は、上記サイトも含め、どの訳を見ても「世界中の意志(思惑)を背負い」といったように訳されているが、どうもしっくり来ない。これだけ具体的な状況描写で作ってきているのに、このサビでいきなりそのような観念的なフレーズはちょっと飛躍がありすぎる。
と思っていたら、ALCのオンライン辞書で、with the best will in the world という慣用句を見つけた。「いくら頑張っても[やる気があっても]、心掛けがどれほどよくても」の意、とある。ALCはそういうネガティブな文脈での用例しか紹介していないが、おそらくは、「自分の最大限のやる気を持って」くらいの意味と思われる。in the world は、What in the world ... などと同様の強意表現。the best がall に変わっても、「自分のもてる限りのやる気(心がけ)を持って」くらいの違いだろう。
用例を探してみると、ロバート・パーマーの曲で、まさに「All The Will in The World」というタイトルを見つけた。これはざっと見たところ完全に低偏差値なラブ・ソングで、サビ(と思われる。ネットで詞をひろっただけで曲は聴いたことがない)で、Keep fighting for your true love with the best will in the world (「真の愛のためにあらん限りの根性で戦え!」……アホや)という表現が連発された後に、大サビ(?)でAll the will in the world can move a mountain All the will in t
he world can make you satisfied …… と続いている。(「ありったけのやる気をもってすれば、山だって動かせる」……アホや)
使われている文脈には天地の開きがあるが、これで正解だろう。「精一杯の気力を振り絞り」という拙訳は日本語にセンスが感じられないけれども、意味としてはそんな感じでいいのではないかと思われる。
for dear life は、「必死になって」の意の慣用句。
このサビの3行が意味していることは、上記サイトが言うように、戦地で攻撃を受けて大破した船から海にダイブする運命へと向かう“息子”、それと平和な暮らしとの対比なのか。それとも、真珠取りしたっていいのに、軍事目的の造船のために海に潜ることになる自分をアイロニックに描写した表現なのか。その辺ははっきりしない。が、それは聞き手が自由に解釈すべきところだろう。)
It's just a rumour that was spread around town
A telegram or a picture postcard
Within weeks they'll be re-opening the shipyards
And notifying the next of kin
Once again
それは町中に広がったただの噂
届くのは電報か、それとも絵はがきか
数週間のうちに造船所は再開され
次の親族にまた通知が届く
再び
(戦地から届く電報は悲報である。絵はがきは、無事戦争を終えてバカンスに入った息子からの連絡だろうか。そのどちらが届くのか、ということ。そして次々に親族が招集されていく。)
It's all we're skilled in
We will be shipbuilding
おれたちに出来ることはこれしかないのだ
船を造ることになるだろう
With all the will in the world
Diving for dear life
When we could be diving for pearls
精一杯の気力を振り絞り
必死になって海に潜る
真珠を採りに潜ることだってできるというのに
……長文失礼しました。
これ、結構決定版だと思うんだけど、どうでしょう?
英語圏在住の皆様、ご指導ご鞭撻よろしくです。
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