« CDと赤ちゃん | トップページ | 松田聖子 Blu-spec CD を買う »

2009年9月 7日 (月)

磯崎憲一郎『終の住処』

ずいぶん前に読了していたのだけれども、「あれぼくの先輩なんですよ!」みたいな話を周辺の人々にしまくる日々で(笑)、なんとなくここでは触れずに過ごしてきてしまいました。
時機を逸してしまったので、ごく簡単に感想を。

個人的には、前の『世紀の発見』で既に賞は獲っているべきものだったと思っているので、現実に獲ってしまった今となっては、まあ当然だろう、と。
後出しじゃんけんで。

一読した感想は、とにかく、これまでの作品に比べて更に読みやすくなったな、ということだった。
兄さんの小説の作法みたいなのは、基本的にデビュー作の『肝心の子供』から変わっていないと言えば変わっていないのだけれども、客観的にも、そして恐らく兄さん自身にとっても、あ、これだな、的に完成を見たのが3作目の『世紀の発見』だったのではないかと思う。
1,2作目の時点から既にあったものが、3作目でかなりはっきりした形になって、たぶんあの時点で兄さん的には、この書き方でいくらでも書けるな、というような感触が得られたんじゃないかと想像する。(ご本人に直接否定される可能性も想定しながら書いてますけど(笑)。スリリングだわ、このブログは)
そうしたご本人のすっきり感が作品にもそのまま反映されて、『世紀の発見』は、発表当時にもそう書いた気がするけど、前2作と比べて格段に読みやすくなったと思った。
読みやすくなった上に、更に深みも増した。だから、あれは本当に傑作だと思って、もうこれで芥川賞でいいじゃないか、と思った。

『世紀の発見』にはそういう愛着のようなものがあるし、ああいう「少年」もの(?)にもともと弱いというのもあるので、兄さんの作品でいちばん好きなのは?と聞かれれば、あれを答えると思う。

が、受賞作『終の住処』は、その『世紀の発見』よりも更に読みやすい作品だった。
それは結局、兄さんが兄さん自身の小説作法にさらに熟達してきたということであって、さらに洗練されてきたということに他ならないのだろうと思う。
おそらく兄さんは、しばらくはこのレベルの作品を連発できる、この書き方で当面どんどんいけるのではないか。

兄さん本人は、よく、「最初の一文だけ書き始めることができれば、あとはグルーヴで書く」といったような言い方をしておられるし、実際そうなんだろうけれども、グルーヴで書くって言っても、そこには当然ストラテジーもあれば作法もあるはずで、全くノリだけで書いてるわけではないはずだ。
要するに、そのグルーヴの方向づけって言うか、ノリをコントロールする術は絶対に必要で、そのグルーヴの作り方みたいなもの、ノリの持っていき方みたいなものを、兄さんはかなり意識的に、はっきりつかんだのだと思う。
それが完成したのが『世紀の発見』で、『終の住処』はそれが洗練されたものである、と。
そう思っておりますよ、兄さん(笑)。

しかし、いくら読みやすくなったと言っても、昨今の世間一般の小説の中では、圧倒的に読みにくい作品のはずだ。
それが、もはや13万部という、純文学においては例外中の例外的な、驚異的な売り上げだという。

兄さん、どこまで行くんすか。
今度サイン本送って下さい(笑)。

|

« CDと赤ちゃん | トップページ | 松田聖子 Blu-spec CD を買う »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

力也さま、
感想ありがとう。でも、俺も歳だし、そんなにポンポン書けないよ。グルーヴとか難しい話は文章にするのが面倒くさいから、今度会ったときに話そう。新潮で横尾忠則さんと対談しているので読んでくれ。
磯﨑憲一郎

投稿: 磯﨑憲一郎 | 2009年9月20日 (日) 08時14分

お忙しいところ直々のコメント恐縮です。
そうですよね、やっぱ受賞後は状況的にもいろいろたいへんになるんでしょうか。兄さんの場合、あんまりプレッシャーとかはなさそうな気がしますが(笑)、取材とか雑音の激増で落ち着いて執筆できないといったようなこともどうししても出てきますよね、きっと。
でも、横尾さんとの対談はなるほど好企画だと思います(笑)。早速入手してみます。
また上京の際は連絡します!

投稿: riki | 2009年9月22日 (火) 01時01分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 磯崎憲一郎『終の住処』:

« CDと赤ちゃん | トップページ | 松田聖子 Blu-spec CD を買う »