『勝又進作品集 赤い雪』を読む
勝又進が今月初めに悪性黒色腫で亡くなっていたということをネットのニュースで知った。
ちょうど『赤い雪-勝又進作品集』を読み終えたところだったので、ちょっとしたシンクロニシティに驚いた。
巻末の年表の最後には、直腸の悪性腫瘍で闘病中とある。
悪性黒色腫というのは、調べてみたら、要するに皮膚ガンのようなものらしいから、直腸の方とはまた別だったのだろうか。
勝又進は、60年代に『ガロ』で漫画家デビューし、最盛期の『ガロ』でずっと4コマなどを連載していたとのことだけれども、全然知らなくて、この『赤い雪』で初めて読んだ。
無理に言うなら、つげ義春と宮本常一を足して2で割って水木しげるをちょっとブレンドした感じ、か。
或いは、昭和初期頃(?)の雰囲気の農村の生活を描いた民俗マンガ、とでも言えばいいのだろうか。
勝又進は、昭和18年生まれの宮城県出身だそうだけれども、その年代の東北には、まだこんなに濃い生活が残っていたのだろう。
うちの場合、こういう農村の世界は、もちろん自分自身は知らないし、農村生まれのうちの親や伯父母の世代でも知らないと思うけれども、じいさん・ばあさんの世代なら知っていたと思う。
かつての農村の有りようは、親の田舎の雰囲気あたりから、何となく実感的に想像できることもあって、このマンガはめちゃくちゃおもしろかった。
短編集だけれども、1つ1つが深くて濃いので、一度にたくさんは読めない。
1日1編ずつ、時間をかけて丁寧に読んだ。
かつての田舎の農村では性的抑圧からかなり自由であった(夜這いとか、そういうの)、というのは、異論もあるようだけれども、ある程度はそのとおりだと思う。
そうすると、うちの田舎のばあちゃんくらいの世代だと、若い頃にはそういう世界でそういうゆるーい倫理観(?)のもとに暮らしていながら、戦争を経て、いつの間にやら身の周りが性的に極めてストイックになっていた、という経験をしているはずで、自身の中でその辺の折り合いをどうつけていたんだろうか、などということがちょっと気になってくる。
うちのばあちゃんはもうとっくに死んでしまったから確認できないけど。
て言うか、生きててもその質問は無理だけど(笑)。
もうずいぶん前、うちの親父の叔母(ぼくのばあちゃんの妹)の若い頃の、男がらみのなかなかスリリングな話が出たときに、今はもう70を越える伯父は、「あの人、若い頃はそんな発展家だったのか」と驚いていた。(もう死語だな、「発展家」って)
そのときは横で、ふーんと思って聞いてたのだけれども、今考えるに、ばあちゃんの妹が発展家だったと言うよりも、その世代の若い頃はみんなそうだったんではないかと思う。
うちの田舎あたりだと、今の70代くらいではもうかつての農村の暗部(?)を知らないけれども、今生きていれば100歳くらいのばあちゃんの世代だと、よく知っていたんだろうと思う。
父方のばあちゃんは、ぼくが学生で東京にいる頃に心臓でぽっくり死んだのだけれども、その直前に帰省して会ったときは、まだぴんぴんしていた。
結果的にそのときに言葉を交わしたのが最後になったのだけれども、そのときばあちゃんがぼくに言った言葉は、「東京でええ女はできたか?」だった。
そんときは、この婆はニヤニヤしながら唐突に何を言い出しやがるかと思ったのだけれども、今にしてみれば、ばあちゃんの若い頃はどうだった?とか聞き返してやればよかったと思う。
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