宵の危機
今日から天気予報では「宵のうち」という表現をやめて、「夜のはじめ頃」という言い方にするとのこと。
「宵のうち」は、「夜6時から9時頃」を表すために使っていたのだけれども、「もっと遅い時間帯を表す言葉だと理解されている」からだそうで。
なるほど、大辞林で引いてみますと、「宵」は、
①夜になってまだ間もない頃。夜がそれほどふけていない頃。初更。
というだけでなくて、
②よる。夜間。
というのも出ている。
確かに、「宵越しの金は持たねぇ」とか言われると、わりと深夜っぽい気もする。
うちの親は、夜更かしする奴を指してよく「宵っ張り」という言葉も使う。
でも、「まだ宵の口だ」とかも言うし、金星を「宵の明星」と言ったりもするわけで、本来はやはり「夜になってまだ間もない頃」なのだろうと思う。
紛らわしいのは認めます。
でも、「夜のはじめ頃」はちょっとどうかしら。
「宵のうちは雨が残りますが、遅くにはやんで……」とか言えば、文脈でだいたいわかるんじゃないでしょうか。
て言うか「……のうち」っていう言い方自体が、まだ序盤であるというムードを既にぷんぷんにおわせているのであって、それだけでもだいたいわかりそうなもんだ。
それに、天気予報でくらい頻繁に「宵のうちは……」とか言ってくれなきゃ、下手すりゃ「宵」という言葉自体が忘れ去られかねない。
テレビで使ってくれれば、「とうちゃん、ヨイノウチって何?」とか子供にも訊かれると思うんだけども、どうでしょう。
正確を期さねばならぬという気持ちはわかるけど、この言い換えは、大変遺憾に思います。
| 固定リンク
「雑記」カテゴリの記事
- 九州に行って来ました(3)(2012.04.14)
- 九州に行って来ました(2)(2012.04.10)
- 九州に行って来ました。(2012.04.07)
- 吉本隆明死す(2012.03.16)
- 謹賀新年(2012.01.04)
コメント
たとえばね、翻訳していてもね、変な意味で「正確」を目指す人は、美しい翻訳ができないんですー。
A will do B good. But if A is not good, it will harm B.
みたいな文章でね、「A は B によい影響を与えますが、A が優れていない場合には、逆効果です。」というのが自然だと思うのですが、「逆効果」ですという言葉が意訳だから正確じゃないというような意見を持つ翻訳者が、実は(たくさん)いるんですねー。
英語を基準にしたものの考え方だと思うので嫌いだし、大体翻訳という職業の倫理に反しているぞ、と思っているのですが、
「でもその日本語ヘン」
と一言でゴリ押しします。
投稿: ショーエ | 2007年10月 5日 (金) 14時49分
残念だよなぁ。気象庁の発表文って、そういう曖昧な日本語がいっぱい使われていて、何か古くさいけどよいなぁと思っていたけど。いちいち解説読まないと、いったい何時なのかわからないのは不便でもあったけど、よかったよね。春一番とか木枯し一番とか。
投稿: ふより | 2007年10月 6日 (土) 15時21分
→ショーエ 翻訳の正確・不正確っちゅうのは、まあ実際のところ難しいやね。厳密なこと言い始めたら、「boy」を「少年」と訳すのは正確なのか?っていうところまでいくからなあ。生徒の和訳を採点してても、どこまでを意訳として認めるのか、果たしてそれはほんとに意訳なのかそれとも偶然当たってるだけなのか、っていう辺りの線引きは大変微妙です。
→ふより そうね、確かに四季折々の表現も、日本語には古くからのいい言葉がいろいろあるよな。雨とか風にもたくさん種類があって、日本語はそういう語彙には特に強いというのをどこかで読んだ気がします。
投稿: riki | 2007年10月 8日 (月) 00時48分