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2007年7月16日 (月)

吉本隆明『家族のゆくえ』を読む

去年出た本で、わりとすぐに買ったのだけれども、今まで読まずに積んであった。

ここ数年の吉本隆明は、それなりの数の本を出してはいるけれども、そのほとんどはいわゆる「語り下ろし」というやつで、自分で原稿を書いているわけではない。(そのおかげでどれもみな読みやすいけど)
たぶん目が相当に悪くなっているのだと思う。
が、この本は「書き下ろし」である。
帯にも、「渾身の書下ろし!」、とある。
まだこれだけのボリュームの原稿を書けるというのがそもそも意外だったのだけれども……。

正に「渾身」。残る力を振り絞って、かなりの無理をして書いたのではないかと思われるような本だった。
ちょっと書かせた編集者は残酷なのではないかとすら思える。

内容的に、目新しいことはもうほとんどない。
吉本隆明は、意図的に、自分の人生をまとめにかかっていると思う。
これまで自分が考え続けてきたことを、わかりやすく語り直そうとしている様子が、ここ数年の活動からはうかがえる。
それは非常にありがたい。
このまま死なれると、あと数十年もしたら、吉本隆明の文章を解読できる人間は1人もいなくなるかもしれない。

この本も、これまで何度も吉本が言ってきたことを、家族論という視座に絞って平易にまとめてある。
このような仕事を(恐らくは相当に無理をして)引き受けたのは、現在の問題として「家族」という論点にアクチュアリティがあると吉本が判断しているからだろうと思う。

人の一生を、【乳幼児期】、【少年少女期】、【前思春期・思春期】、【成人期】、【老年期】に分けて順に論じてある。
正直、おいおいおい、と思う箇所がいくつもある。
大丈夫なのか?と心配になるような記述もある。
それでも改めて示唆に富むと思われる部分がたくさんあった。

老年期のところが突出している。
ちょっと鬼気迫る感じすらある。
100m程度の散歩すらままならず、尿洩れで紙おむつなしには寝られない自身の苦悩までもが赤裸々に記されている。
現在、吉本自身にとって切実なのは、要するにこの老いの問題に他ならないのだということが痛いほどわかる。
そして、その老年期における発見こそが、唯一、近年の吉本隆明の新境地ではないかと思う。
……いや、このような老人観をこそ吉本は否定しているのだけれども。

本の最後には、かの名著『共同幻想論』から、「対幻想論」が転載されている。
紙数不足を補うためか……というのは下衆の勘繰りであろう。
結果的には、この「対幻想論」がいちばんスリリングだった。
この本は60年代に既に「家族」の問題についてここまで考え詰めていた人が、半世紀近く経ってから書いた本なんだぞ、というような編集者の主張が聞こえるような気がした。
「対幻想論」、やっぱすげえ。

いや、正直言うと、今回読んで、この「対幻想論」、初めて全部理解できました!
それが嬉しかった(笑)。
で、それが、単に個人的にスリリングだっただけかもしれないです。

『共同幻想論』を初めて読んだのは、高校3年生のときだった。
季節のいい頃に、学校をさぼって公園でひなたぼっこしながら1日中読んでたのをよく覚えている。
もちろん、当時も(かなりわかりやすくなったとされている)改訂新版で読んだのだけれども、それでも何一つ理解できなかった。
にもかかわらず一応最後までひととおり読んだのだから、高校生の無駄な体力には我が事ながら恐れ入る。

次にトライしたのは、20代前半くらいだったかと思う。
依然よくわからなかったけれども、共同幻想、対幻想、自己幻想という区分くらいは何となくわかったような気になって、そのような語が他の著作で引用されても、それなりに大丈夫な気持ちになった。

以後、十余年……。
いやはや、ぼくの頭も少しは成長していたのか、40目前にして、やっとまともに理解できるようになってました。
主観的には、むしろハードな文章の読解力が落ちているような気がしていたので、ひと安心(笑)。
この勢いで、もう1回読み直してみるか、『共同幻想論』。
いやいや、3部作、全部行ってみるか。
『言語にとって美とはなにか』と『心的現象論序説』は、最後まで通読できたことがないし……。

そうそう、「SIGHT」で連載してる「自著を語る」シリーズは、たいへん助かります、そう言えば。
あれ読んだだけでおおよその内容がわかることも多い。
ともあれ、もうしばらくは、吉本隆明本人にもがんばって語り続けてもらいたいと、切に願います。

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