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2007年3月27日 (火)

ひやわい

家と家の間の、軒と軒がぶつかり合いそうな狭い路地のことを、うちの母親は「ひやわい」と言う。
この言葉が昔から気になっていて、調べようとしたこともあったのだけれども、わからなかった。
家と家の間だから、「ひやわい」は、おそらく本来「ひや・あい」であって、「あい」は「間」のことであろうと当たりをつけてみたのだけれども、「ひや」がわからない。
もちろんうちの大辞林にも載っていない。

それが、ふと思い立ってネットで検索してみたら、簡単にわかって拍子抜けした。

「ひやわい」は「ひや・あい」ではなく、「ひ・あわい」であった。
「ひ」は日、「あわい」は「間」。
「家と家の間の、狭くて日が通らないところ」の意らしい。
「間(あわい)」という古語を知らなかった、古文の教養のなさが敗因だ。
名張市には有名な「ひやわい」があるようです。

うちの親父の生家も過疎の農村なのだけれども、ここはなんでも平安時代の語彙が豊富に残されているとのことで、かつては方言の研究家なんかが老人の話を聞きに来たりしたこともあったらしい。
そうした言葉の一部なのかどうかは知らないけれども、確かに17年前に死んだばあちゃんは、耳慣れない語彙をたくさん持っていた。
今でも伯父伯母が部分的に受け継いでいる。

「No Problem、構わない、大丈夫大丈夫」等の意で、「だんない」と言う。
ググってみると、これは関西圏一円で結構広く使われているらしい。
指示内容から、「だん・ない」、つまり「だん」が「ない」のであって、「だん」は「差し障り、支障」等の意ではないかと勝手に思っていたのだけれども、根拠はない。

「始終、何度も何度も」の意で、「せんど」と言う。
これは、語義から、「千度」であろうと考えていた。
ネットでの調査によると、これも関西一円で結構使われている様子だけれども、指示内容に微妙に誤差がある。
京都弁の解説として、『「せんど」は「千度も」いうところから来ていて、量が多いことや時間が長いことを表してます。』というのを発見。「量が多いこと」というのはぼくにはピンと来ないが、まあ同じ言葉か。
しかし一方、高松の方言として、『長い間・たいへんに・大分(だいぶん)。「遷刻(せんどき)」のなまり。』との解説も見つけた。こうなってくると、たまたま同じ「せんど」だけれども、出自は別かという気がしてくる。
出雲弁で、「用例:せんどはほんねあーがとございした。(訳:先日は本当にありがとうございました)」というのもある。これだと、「先度」だろう。
あ、いや、それとも、「せんど」が「千度」で「何度も何度も」というのがそもそも実は自分の勝手な思いこみという可能性もあるか。
よく考えてみたら、正確に意味を確認したことがあるわけではなく、文脈から類推しているだけだから、ばあちゃんは「先だって」の意でしゃべっていたかもしれない。
「せんど」は奥が深いな。

いずれにせよ、このような語彙は、もう20~30年もすれば完全に消滅するのではないかと思う。
「家と家の間の日の当たらない狭い路地」を一言で表す言葉がなくなるのは、たいへん惜しいことだと思う。

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コメント

消滅させないで使いましょう!「家と家の間の日の当たらない狭い路地」に「ひやあい」と標識立てるとかさー。

うちも伊賀上野のおじいちゃんが(死んでいる)、「アンバイしたろ~」といって、孫を自分のひざの上に座らせていたけど、「アンバイ」というのがなんのことかわからなかった(今もわからない)。なんとなくかわいがってもらえそうなことだけわかっていた。

投稿: きょうたん | 2007年3月28日 (水) 12時46分

おれ、それ、わかるよ。「按配よくしてあげよう」で、「いい感じに(座らせて)あげるからおいで」くらいの意。
本来は恐らく「アンバイようしたろ」であって、「よう」が脱落して聞こえる感じに言ってたんでしょう。うちのばあさんなんかの発音では、「あんばようしたろ」と、「イ」が脱落してるような言い方でした。

投稿: riki | 2007年3月28日 (水) 18時08分

名張のblogを探している途中に立ち寄りました、名張に住む者です。m(._.)m
おっしゃる様に名張の旧町内にはあちこちにひやわいがあります。車が通れる道の方が広いのですが、それでも昔ながらの道ゆえに車がすれ違うのは一苦労する道。更に信号がない為かそこを抜け道に使う車が多くて土日は買い物へ向かう車で結構怖い思いをすることがしばしば。だから車が走れないひやわいを歩いて散歩したりしています。狭いひやわいでは前から自転車が来ると避けるのが一苦労するのですが、まるで余所の家の庭先をお邪魔しながら歩く道は色々な発見があって楽しいものです。
いきなり失礼しました
m(._.)m

投稿: 藤原千方 | 2007年3月28日 (水) 22時48分

ありがとうございます。実は名張には1年ほど住んでいたことがありますが、そのような界隈は知りませんでした。
昔はどこにでもありましたけどねえ、ひやわい。

投稿: riki | 2007年3月28日 (水) 23時17分

そうだったのか!勉強になりました。

投稿: きょうたん | 2007年3月29日 (木) 04時17分

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