音楽連想ゲーム
聴き直しシリーズの一環として、Prefab Sprout 「From Langley Park to Memphis」をCDで買い直し。
そもそもプリファブ作品にはハズレというものがないけれども、敢えて言うなら4作目(?)の「ヨルダン:ザ・カムバック」が最高傑作だと思ってた。
が、いや、しかし。久しぶりに聴いたら、やっぱりこの3作目もいいわ……。
完全に「ロマンチックが止まらない」状態の近年の作品に比べ、このアルバムは、ポップだし、ロマンとニヒルの配分も良好で、実にリスナーへの配慮が行き届いている。
素晴らしい作品だ。
さて、そういうわけで、久方ぶりにライナーなどを眺めながら聴いていたら、5曲目「Nightingales」に、スティービー・ワンダーがハーモニカで客演していることを発見。
そうだっけ?と思いつつ、早速注意して5曲目を聴いてみると……。
うーん、ハーモニカ・ソロ、いまいち。
折角なのに勿体ない。
さすがのスティービーも、パディ・マクアルーンが作る曲のこの奇想天外なコード進行に合わせるには苦労したと見える。
こざかしいエフェクト処理も逆効果だ。
スティービー・ワンダーのハープの客演はそれこそ星の数ほどあるだろうけれども、個人的にまず思い出すのは、ユーリズミックスの「There must be an angel(ってタイトルだっけ?)」。
まず曲自体が大変な名曲だけれども、あの曲は、間奏のハーモニカソロのところで、神が降りる。
あれ以上に完璧なハーモニカソロというのを、ぼくは知らない。
いつもあのソロで鳥肌が立つ。
スティービー・ワンダーは、そもそも存在自体が神懸かっているし、鍵盤を弾いても歌を歌っても、何をやっても神懸かりだけれども、いち演奏者としてスティービーのソウルが最もむき出しになるのは、歌でもピアノでもなく、ハーモニカではないかと思っている。
もともとリトル・スティービーの名で天才ハーモニカ少年としてデビューしたわけだから、本人としても、最も操りやすい楽器なのかもしれない。
もはや人間業とは思えないほどの完璧なピッチコントロールとタイム感。眩しいくらいに伸びやかで神々しい音色。
とても同じ人類の演奏とは思えない。
そういうわけで、「There must be an angel」が無性に聴きたくなったのだけれども、あいにくこれは持っていない。
でも、プリファブでの中途半端なハープソロが納得いかないので、口直しをしたい。
スティービー本人のアルバムでハーモニカをぶいぶい吹いてるやつを探すことにする。
選んだのは、アルバム「Songs In The Key of Life」。
アナログ盤で言うところのC面1曲目、超名曲「Isn't She Lovely」では間奏、後奏でハーモニカを吹きまくっているはずだ。
久しぶりに聴く。
うーん、やっぱり素晴らしい。
こうでなくては。
そうやって聴いていると、ハーモニカソロには満足したのだけれども、また違うところに耳が行く。
ご存じの通り、スティービー・ワンダーは、ほぼ全ての楽器を自分で演奏している。
そして、確かにどの楽器も非常に達者だ。
他人に指示するよりも、自分でやった方が満足な結果が得られるとの判断だろうと思う。
しかし、この曲、改めて聴くと、どうもドラムがもっさりしているのが気に入らない気がする。
勿論、スティービー自身のこの独特のドラムも、ぼくは嫌いではない。
でも、当然ながら、もっと凄腕のドラマーは、当時だっていくらでもいる。
スティービー・ワンダーが呼べば大喜びで叩きに来たはずだ。
そういう超一流どころが叩いていたら、この曲はさらにとんでもないことになっていたのではないか……などということを考える。
いや、しかし。とも思う。
この濃密な音空間は、1人で演っているからこそのものじゃないか、とも思う。
スティービー同様、全ての楽器を自分でこなす人間は、他にもたくさんいる。
コンピュータ技術が恐ろしく発達した昨今では勿論当たり前だけれども、そうではなかった70年代、80年代にも、そういう人々は結構いた。
そういう人たちの作る音に共通して言えるのは、音の濃密さだ。
自分で書いた曲を自分でアレンジして自分で全部演奏する。
そうすると、どうしてもできあがる音は、避けようがなく密室的で濃密なものになる。
その人間の体質も体臭もぎっしり詰まってそこに全部出る。
プリンス然り、岡村靖幸(笑)然り……。
それは、何人かのプレーヤーが集まって作る音楽とは全く別の、根本的なところで何かが異なるサウンドである。
スティービー・ワンダーは、敢えてそれを選択したはずだ。
客観的に、技術的に自分より“上手い”ドラマーがいくらでもいることなど勿論知っている。
それでも敢えて自分で演奏することを選ぶのは、それなりの理由があってのことだろう。
……いつの間にか、そんなことを考えながら聴く。
他の人はどうだったんだろう。
今のように録音技術が発達していなかったこの時代、他にこんなことやってた人と言えば……。
……まず思い浮かんだのが、トッド・ラングレン。
この人の場合は、性格的に問題があるから、単に他人を信用しなかっただけかもしれない(笑)。
勿論、スティービー・ワンダーと比べると、比べるまでもなくプレイヤビリティも低い(笑)。
こやつの1人バンドはいかなるものか。
……そういうわけで、トッド・ラングレンが聴きたくなった。
選んだのは、2枚組全38曲収録のシングル集「Singles」。
トッドを聴くのも久しぶりだなあ……。
ディスク1のアタマ3曲、「We Got to Get You a Woman」「Baby Let's Swing/The Last Thing You Said/Don't Tie My Hands」「Be Nice to Me」ですっかりやられる。
うーん、やっぱり素晴らしい(笑)。
トッド・ラングレンは、そのあまりに偏執的な音作りや奇矯な言動から、奇人のようなイメージが強いけれども、単純に曲がよくて、歌が上手い。
それだけで十分だ。
70年代には、全部一人で演奏するっつったって、同期の技術も何もないわけだから、おそらくはまず一人でドラムを演奏するところから始めている。
そのドラム自体のテンポが既にヨレヨレになっている。
そのヨレたリズムに無理矢理合わせて他のパートを重ねていくんだから、やってることにもともと無理があるんだけれども、なんだかんだで、ちゃんと帳尻が合わせてある。
キメの部分など、かなり無理を感じるけれども、まあこれでいいかって感じでまとめてある。
「I Saw The Light」とか「Couldn't I Just Tell You」とか「Wolfman Jack」とか、相当に無理がある(笑)。
でも、それがダメかと言うと、決してそうではない。
逆に、これをスタジオ・ミュージシャンでかっちり仕上げてたら、却って味わいがなくなってるかもしれないという気がする。
この親密な、愛着を感じずにいられないサウンドは、1人でやっているからこそだと思う。
こうやってシングルをまとめて聴くと、この人はほんとに珠玉の名曲を山のように作っていて、普通にやってたらもっともっと売れただろうにと思うけれども、逆に、普通にやってたらこんなに熱狂的な信者はつかなかっただろう。
……というようなことを考えながら聴く。
さて、他に一人で全部やってると言えば、ロイ・ウッド……。
いやいや、トッド・ラングレンに似たタイプのブルー・アイド・ソウル・シンガーと言えば…………。
……かようにして、私の夜はどんどん更けてゆくのであります。
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コメント
ポール・マッカートニーのファースト、どうですか。
自宅録音、ひとりで全楽器演奏の「はしり」でしょう。1970年。
演奏はへろへろだし、音も悪いけれど、ぼくは好きなんだなあ。
投稿: chinsan | 2006年12月11日 (月) 20時57分
いいっすよねー。あれはまさにホームレコーディング、っちゅうか、ほとんどデモテープ状態だと思いますけど、それだけに親密感が濃厚で。ポールの曲や歌がまたそういうムードに実によく合ってるし。
ぼくは「ホワイトアルバム」のポールがいちばん好きなんですけども、あの良さがファーストにはすごくいい感じで出てると思いますです。70年前後のポールは正に神懸かりですよね。
……そこで思いついたのは、「ロック・ミュージシャン30歳限界説」。大半のミュージシャンが20代で作曲能力のピークを迎えるという…………、もうやめときます(笑)。
投稿: riki | 2006年12月11日 (月) 22時13分
Prefab の CD を持っていたはず!と探しても見つからなかった。たぶんふよりさんにあげたような気がする。
投稿: ショーエ | 2006年12月15日 (金) 03時41分
???
投稿: ふより | 2006年12月16日 (土) 12時11分